2007年8月18日土曜日

デッサンの参考にね。

連休明けである。世の中の皆さんもきっとそうであるように、オレもすっかり連休ボケで、仕事はヤマのように溜まってはいるもののアタマが働かない。脳死状 態である。ウダウダとデスクにしがみついていても埒が明かないので、会社帰りにホットヨガで毒素を抜くことにする。オレは最近出会ったこのホットヨガにハ マリつつある。いや、実は相当ハマっている。
温度38度、湿度65%の亜熱帯状態のスタジオで1時間、蛇やらバッタやらウサギやらのポーズをじん わりじんわりと取りながら、普段使わない筋を伸ばし汗をかく。尋常ではない汗をかく。サウナでストレッチをやるようなものであるから、もはや「オレは病気 か!?」というほどの汗をかく。1時間の「冥想中」に1リットルもの水を飲まなくてはならないのだ。ビールなら1時間に1リットル飲む自信は大いにある が、水は…というところであるが、これが飲めてしまう。水分を摂るもんだから、さらに汗をかく。灼熱である。水分を補給しないと脳に酸素がいかない(?) せいか、ズキズキと頭痛がしてしまうのだ。よって、「は~い、ここで汗を拭いて水分補給をしてくださいね~」というインストラクターのおねえちゃんの可憐 な声を待つまでもなく、ゴクゴクとぬるい水をガブ飲みするオレである。やや酸欠でたゆたっていると、もはや意識はさながら「インドじゃん、ここ」である。 気分だけはガンジス河で沐浴した感じ。いや、ちょっとウソか。
そんなわけで大量の汗と共にひと皮剥けたテンションになる。いやぁ、運動って素晴らしいものですな。
み んなもカラダを動かした方がいいぜ!って、誰に言ってんだよ!ともあれ、明日への活力が湧いてくるな。なかなかいいっすよ、ホットヨガ。ひとつ心配なの は、非常~にギリギリのコンディションに人間を追い込む類いのものなので、急になくなりゃしないかってことですかね。死線をさまようひとが出てきてしまっ たら、ホットヨガスタジオは忽然と姿を消すであろう。心配だ。
ヨガ話はここまでにして、今回は予告通り(?)「インターネットとはスゴイもんだな」ってことを少し書いちゃおうかな。

■不定期連続ドキュメンタリー小説 「キンユウの季節」■
~第1話 「えぇッ!?厚切りステーキ300グラムっすか!?」~

ウ チの会社の経理部にはミタさん(仮名)という、おじいちゃんがいる。そう、おじいちゃん。頭髪は真っ白で、目元には今までの人生の軌跡である深くシブいシ ワが幾重にも。年の頃は70か70ちょっと過ぎか。オレのオヤジよりは明らかに年上な感じ。定年はとうに越しているはずだし、天下りというわけでもないよ うだ。そもそもウチは天下り先になるような会社ではない。小耳に挟んだところによると、ミタさんは社長の遠縁らしい。遠縁、って。具体的な関係性は誰も知 らない。謎である。
ややぽっちゃりとして肌ツヤの良いミタさんは、見るからに「好々爺」である。ご自身のお耳が遠いので、声がやたらデカイのもご 愛嬌である。ミタさんは辻堂だか茅ヶ崎だかにお住まいで、東海道線の「湘南ライナー」で通勤なさっている。湘南ライナーなら全員座れるだろうに、「混むの がイヤだから」と、5時過ぎには自宅を出発し、銀座にあるウチの会社には7時には到着している(らしい)。経理のひとが言うには「別に1日7時間も8時間 もいなくてもいいんだけどねぇ(要するに戦力外)」ということだが、ミタさんはご家族の方に「ボクがいないと経理が回らなくてねぇ。まだまだ引退させてく れないんだよ、この年寄りを。困ったもんだよ~」とか何とか吹聴しているそうだ。それはまったくもって大ボラである。全社員、ミタさんの存在に疑問を持っ ている。が、どうでもいいことではあるので、誰も追及しない。ミタさんの位置とは、ちょっぴり切ない高齢化社会の断片。あれ?そうだったけか。わからなく なってきたぞ。
とにもかくにも、ミタさんはお身内には「おじいちゃんはまだまだ現役なんだぞ」アピールをブチかましていることは確かなようだ。こ れは裏とってます、経理部の田山さん(仮名)から。そんなミタさんをオレは「人の好いじいさん」とばかり思っていた。疑いなく「枯れたじいさん」だと。 が、ミタさんの生活を一変させてしまうものが出現してしまうのである。人生の晩年で、よもやそんなスパイシーなものが登場するなど、ミタさんは想像だにし ていなかったであろう。インターネットである。インターネットの出現(?)は、ラブリーなじいさんであるミタさんの日常を劇的に変えてしまうのである。
会 社で、間違いなく会社で、ミタさんは「インターネット初体験」をした。ショッキングだったようである。こんなものやあんなものを簡単に見ることができるな んて!!昔はそりゃあ苦労したもんだ。盗み見したり、顔を隠しながらコッソリ買ったりしたのに…。こんなにも容易に女性のハダカが見られるとは!
そ う、ミタさんはエロサイトに傾倒しまくってしまったのである。会社でエロサイト。会社が会社ならば、セクハラで大問題である。が、大して気にも留められな いミタさんは、社内で人の目に気を配りながら、ヒマさえあればエロサイトをチェックしていた(らしい)。が、悲しいかな。高齢であるミタさんはツメが甘 かったのだ。社内でエロを堪能するにはあまりにも無知だったのだ、ネットに対して。いや、PC自体に対して。
ある日、ミタさんのPC横のスピーカーから、「あぁ~んあんあん」というナマめかしいオンナのコの声が
フ ルボリュームで(!)響き渡った。ミタさん、スピーカーの電源入れちゃあダメでしょ…ちゃんと切っておかないとね。って、今度はミタさんがエロサーフィン をしていた時に、ミタさんの後ろをたまたま通り過ぎた社員がいた。慌てふためいてPCの主電源を切ってしまったミタさん。ブチブチッッッ!!………。PC は故障した。その日の午後、サーバメンテナンスを頼んでいる担当者にコメカミに「怒り」のマークを浮かべながら息巻いているミタさんを見てしまった。「早 くッツ!早くだよっっッツ!!急いでるんだよ!パソコンが壊れてたら仕事にならないんだよ!一刻も早く直してくれないとっっ!!頼むよ!!!」←紙の伝票 数えてるのしかお目にかかったことがないのだが…。見間違いだったのだろうか?
この時のPCの故障がよほどこたえたのか、経理部で人員を補充する ことになった人材採用の面接の際、応募者に社長が「簿記は何級の資格を持ってるの?FP(ファイナンシャル・プランナー)の資格、取る気ある?」と実務的 な質問をしている脇で、ミタさんは公然と「キミ、パソコン直せる?」と言ってのけたそうだ。経理の仕事ちゃうやんけ~。
そんなミタさんだが(今ま での話はマジで誇張ナシ)、今年の2月から嘱託ということで、週1回の出勤となってしまった。果たして週1でミタさんの「終わることなきオトコのサガ」が 満たされるのだろうか…。気にかかるところだ。そうそう、あえぎ声フルボリュームの他に、ミタさんはプリントアウトもしちゃうんだぜ。前にプリンタの受け 口に、ウォ~オ イエ~ッッス系の金髪さんのお写真がデカデカと乗っていたのには度肝を抜かれた。「ミタさん、いくら何でもプリントするのは…」と田山さんがたしなめたと ころ、「いや、ボクは絵画教室に通っているからね。デッサンの参考にね」と平然とコメントしたのである。
もういいよ、もうウソつかなくていいから…。でも会社ではやっぱりやめてね、ビックリするから。
しかし、 未だにオレはちゃんとミタさんとお話をしたことがない。挨拶程度である。「いろんなお話伺いたいし(どんな話だ)、今度ランチに誘っちゃおうかな~」とオレが画策していたら、田山さんが耳打ちをしてきた。
「ベティさん、ミタさんってスゴイんだから。あの年でランチは厚切りステーキ300グラムとか、トンカツとか天ぷらとかガツガツ食うのよ。見てるだけで胃もたれしてくるから、やめときなさいよ」
近頃元気なのはばあさんだけではない。気を吐いているじいさんもいる。ミタさん、明日会社に来るらしい。こないだ来た時はやっぱし少し元気がなかったような気がするな。生き甲斐の重要さを痛感する。

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