
浅草駅に着いた頃には雨足は一段と強まっていた。や やザンザン降りである。肌寒い。そんな陽気のせいか、さすがの観光地浅草も人影はまばらだ。「うぅ…寒い…」少し後悔し始めたオレを一向に気にも止めずに ジョゼはガシガシと歩いて行く。「観光ですか?どうっすか、人力車!」と人力車漕ぎ(?)のお兄ちゃん達が次々と声をかけてくる。「観光じゃね~よ!失礼 なっ。地元(みたいなもんだ)なんじゃい。昼飯食いにちょいと繰り出しただけだいっ」とムキになるオレに「オレ達、やっぱりおのぼりさんにしか見えないん だろうな~」と達観気味のジョゼである。
ジョゼは「今日のランチはお好み焼きだからね!」と息巻いている(ように見えた)。Googleで検索し た、浅草のお好み焼きといえば「染太郎」だと、目的地に向かって完全に照準を合わせている。「染太郎は一度行ってみたかったしな~」と、タラタラとジョゼ について歩みを進めるオレ。ほどなく店に着いた。人気店とはいえ、時間帯も中途半端なせいか(ランチと言うには完全に外れた遅い時間だ)、客席は空いてい た。「おぉ、ここが染太郎か…」一見さん丸出し状態で興奮するオレ。有名店でのお約束の有名芸能人や著名人の色紙を眺めつつ、生ビールなぞを飲む。「高見 順も常連だったのか~なるほどな」と、娘の高見恭子は知っているものの、肝心の高見順の作品を読んだことがないくせに感慨に耽るオレ。定番である(だろ う)お好み焼きは美味であった。「う~む、ウマイ。メリケン粉も具材(海鮮もの)も特別なモノではないだろうに、この旨さはどこが違うのだろう?」と唸っ ていると、「これは『つなぎ』が違うね。出汁だよ」とジョゼが分析していた。関西出身のジョゼは、具の混ぜ方や焼き方、ソースの塗り方まで仕上がりにチマ チマとこだわっていた。「違う!もっと上手く焼けるはずだ!」と鼻息を荒くして(いたように見えた)、「適当でいいよ~。早く食わせてくれ~」というオレ を制して、「まだ、ダメだ!もっと全体をナメしてから!」と、鍋将軍ならぬ「お好み将軍」よろしく、ヘラでギュウギュウとミックス焼きを押していた。
こ の日ジョゼは浅草に繰り出す前にオレに「お風呂のフィルターのお掃除の仕方」をこと細かくレクチャーしてくれた。要はフィルターを外して中性洗剤で洗うだ けのことらしいのだが、こまめにフィルターを洗うことの重要さを力説していた。東神田のマンションに引っ越してきたのは半年前だし、新築物件なのでそんな に汚れてないだろうがよ…と思いつつ、オレはジョゼの講釈を真剣に聞いて(いるフリをして)いた。しかしこのオトコ、時折ハッとするほどの緻密さと几帳面 さと生真面目さを垣間見せるのだが、私生活では自他共に認めるロクデナシであるのはどうしたことであろう。不思議だ。
そんなこんなでお天気はバッ ドコンディションではあったが、久々の浅草は東京の下町風情を堪能するには十分なものだった。ウチに帰ってから、テレ東の「アド街ック天国」を何気なく見 ていたら、奇しくも「浅草伝法院通り」を特集していた。鰻の小柳もいいな…釜飯の麻鳥か…天ぷらの大黒家に中清ね…いいじゃねぇか、定番っちゃ定番だな… 煮込みストリート…グッとくるね!昼間っからクダ巻いても誰も文句言わないだろう…夢が広がるな…違和感なく馴染めそうだ…来週あたりまた行っちゃおうか な、と目論んでいたら、何と来週は浅草名物三社祭りだってさ!何百万人もの人出が予想される、ってナレーションで言ってるじゃんか!三社祭を敢えて外して 出かけたんだぜ…、と言いたいところだが、実は何も知らなかっただけなんだよな…。あぁ~、やっぱりおのぼりさん! ジョゼは老舗の時計店でイタリア(製っぽい)腕時計を衝動買いしていた。バンドを調整してくれるオジサンが「お客さん、腕細いから~」とコメントしている ので、オレはすかさず「腕だけじゃなくて根性も細いですからね」とツッコンでやった。商売人然としたオジサンはニンマリと笑って「あんた、根性は細い方が いいんだよ」と、励ましだか慰めだかわからない曖昧なことを言っていた。商売上手だね~。百戦練磨っつー感じ(てほどでもないか)。
それはさてお き、浅草に行ったのはホントに久しぶりだったな。前に行ったのはいつだったっけか。思い出した!6,7年前だ。オレが勤めていたM出版の林さん(社長)と 某メーカー(液晶が有名です)の企画部の高嶋さんと行ったんだった。懐かしいな。珠玉のエピソードがあるんだったぜ。記憶がグングンと呼び戻されてきた ぞ。このネタについては明日書くとしよう。キーワードは「観音様」だ。めっさ記憶が甦るぜ~。
0 件のコメント:
コメントを投稿